新規事業担当者は顧客課題やニーズに即したアイデアの良し悪しを判断したり、経営者にアイデアを適切に共有し理解を得るための活動をしなければなりません。
アイデアの妥当性を検証して、事業活動に活かすためにはテクニックと知識が必要です。
本記事ではキュレーションズで新規事業の戦略策定・立案・導入を行う野村 亮介と“Pinky” 荒井 宏之が対談形式でアイデアの発想と事業活動への活かし方に関するお悩みに答えていきます。
1. アイデアの解像度を引き上げるには
質問:アイデアをひらめいたときはワクワクするが、時間が経過するとうまくいくのか不安になる。アイデアの解像度はどうやって引き上げれば良い?
2. アイデアを適切に評価する方法は
質問:アイデアがイケているのか、イケていないのかどこで判断すれば良いですか?経営者目線での良いアイデアとユーザー目線の良いアイデアが異なる場合は経営者をどのように説得すれば良いでしょうか。
3. アイデアを実現するための第一歩は?
質問:たくさんのアイデアが出てきたときに実現に向けて進むための第一歩は何取り組めばいいですか。
4. 社会課題を起点にした新規事業の取り組み方
質問:社会課題を起点に新規事業に取り組む際のデザイン思考の進め方を教えて欲しい。
5. お役立ちコンテンツ
新たな収益の柱をつくる『DX時代に大企業が取り組むべき事業領域とは』
“Ryoz” 野村 亮介 / キュレーションズ株式会社 CXO
顧客起点のカスタマーサクセス、カスタマーエクスペリエンスのスペシャリストとしてプロジェクトに関与。上場企業子会社社長の経験があり、経営目線も加わりプロジェクトの軸を形成する。立教大学卒業後、NTTグループ、KDDIグループ、グリーなどを経て、株式会社ザッパラス執行役員に就任。同子会社(株)ワナップス 代表取締役に就任し、インターネット放送局の立ち上げなどを行う。
“Pinky” 荒井 宏之 / キュレーションズ株式会社 プリンシパル(主席コンサルタント)
新規事業の何でも屋。スタートアップ複数社にてWeb、O2O、IPライツ、コンテンツ、食品、健康食品、化粧品、ファッションなどの事業立ち上げを経験した後、成熟事業を持つ大手企業に対して外部パートナーとして、新規事業領域の戦略策定、研修・セミナーの企画・運営、事業創造プログラムの企画・運営、ビジネスデザインなどを通じて、成熟事業のデジタルを活用したビジネス・トランスフォーメーションの実現に注力。チガサキベンチャーズ合同会社/共同代表パートナー、シードアップへのエンジェル投資/顧問/社外取締役、情報経営イノベーション専門職大学/客員教授
1. アイデアの解像度を引き上げるには
質問:アイデアをひらめいたときはワクワクするが、時間が経過するとうまくいくのか不安になる。アイデアの解像度はどうやって引き上げれば良い?
Ryoz:僕も「このアイデアめちゃくちゃ良い」みたいにひらめく瞬間があるのですが、だいたい他人が実行していることが多いので、アイデア自体に価値はないと思ってます。そのアイデアを調べたときに、実際にサービスとして実現されてないのだとしたら「無い理由」がきっとあるはずです。もしかしたらビジネスモデルに原因があるのかもしれないし、商習慣が邪魔してる可能性があります。
最近はいわゆるデジタルトランスフォーメーションっていう言われ方をしながら、今までITに取り組んでこなかった人たちもITに目を向けるようになって、SaaSがどんどん普及していますが、そこに邪魔してる商習慣がないか探りに行くと良いですね。
業界の仕事の流れを見に行くと解像度が上がるし、アイデアの質も上がると思っています。一例を挙げると、スタートアップで『ANDPAD』という施工管理をしているSaaSがあります。工事現場の写真とか見積書とかどこの会社が関わってるのか全部クラウドで管理できるサービスです。一見普通そうに見えるのですが、良い目の付け所だと思うポイントが1つあります。
何かというと、現場の顧客ヒアリングをする中で「工事現場の人たちは毎回現場に確認しなきゃいけない、そのアナログな課題が大きなペインになっている」ということに気づいてサービスに落とし込んでいる点です。
工事現場の人たちってサイズの計り直しがあったり、面している箇所を確認したりするために毎回工事現場に足を運んでいるんですよね。そこに、デジタルを導入して全部管理すれば、自分たちはもちろん電話やFAXで繋いでた請負業者だったり、孫会社だったり関連する全員の管理とか運用が楽になるよねっていう思想で作っているのがすごいなと。
ANDPADみたいに、ブレークスルーみたいアイデアをを見つけられると強いと思ってるので、僕はアイデアをひらめいて実行に移してみたいなと思ったときは、少なくともその界隈の人たちにヒアリングをたくさんしています。そうしたら、アイデアの解像度も上がるかもしれないし、別の視点で別のことが発見できるかもしれないからです。
Pinky:結局は「顧客に聞け」ということですね。解像度を上げるためには結局顧客と向き合うことしか方法はないと思います。質問に「アイデアがうまくいくか不安になる」とあったので、不安になる観点で回答すると、既存事業は割と計画があって当たってるか外れてるかってチェックしやすいんですよね。でも、新規事業は計画も都度修正するからそういうチェックポイントが作りにくい。
かかってるコストも既存事業と新規事業はちがう。だから、不安になって当たり前だと思います。逆に不安が解消されるタイミングは、世界が変わった瞬間だけだと思います。前に進み続けられる不安がなくなったのに事業が成長してないのは問題ですし、不安はあっても良いという感じがします。
2. アイデアを適切に評価する方法は
質問:アイデアがイケているのか、イケていないのかどこで判断すれば良いですか?経営者目線での良いアイデアとユーザー目線の良いアイデアが異なる場合は経営者をどのように説得すれば良いでしょうか。
Ryoz:イケてるの定義問題はあると思っています。仮に上層部に対して、新規事業のアイデアを提示するときに上層部が納得するためには、「彼らがイケてると感じるものは何なのか」を考える必要があるかなと。
新規事業の場合、三方良しのようなビジネスモデルは成立するのか、っていうのもありますが、そもそもの会社の目的だったり、部署やプロジェクトが担わなきゃいけない価値次第かなと考えています。もしそれが「顧客を集める」だったら、コストを度外視してまずは1回組み立てるべきですね。なので、イケているのかは何を軸にするかによって判断軸は変わりますね。
あと、世の中にすでに存在している手法だからイケていけていないのは違いますね。ちょっと前だと、Airbnb for X4XとかUber for Xみたいな考え方で「Uber的なものを作ろう」というのと一緒で「既にあるけどここの領域においては実現できてないよね」というのをうまくピンポイントで見つけられると僕はイケていると思います。
なので先ほどの『ANDPAD』もいい事例ですよね。言ってることはただのクラウド管理じゃない。だけどそれを業界にうまくピンポイントではめに行くような、そういうアイデアを出せるととてもイケてる。一方で僕がイケていないな、と思うのはタクシーに乗っていると人材管理系のSaaSを見かけますが、差分でしか違いないな…と思うとちょっとつまらないなと思ってしまいます。
Pinky:経営者に説得するときのアイデアの伝え方については僕から2点考えをお話しします。1つ目、そもそもイケているか・イケていないかの判断基準はないと思います。Ryozさんの定義と一緒で「評価基準を作らなきゃいけない」ていうのが新規事業をつくる前に必要なプロセスとしてあります。具体的には「今はとにかくアイデアを数多く出すことが大事なんです。質はさておきで」みたいなことを経営者に話すところからですね。
2つ目に、そもそも経営者目線で良いアイデアっていうものは存在しないです。アイデアの良し悪しは顧客目線一択なので、そこに顧客が存在するか、しないかでしか評価はできないはずです。経営者に対して顧客目線での良いアイデアを評価してほしいとリテラシー教育するか、経営者に説明するときの資料は別で作るかの2択だと思います。
つまり、経営者に評価ができるようになってもらうか、経営者にはある種の嘘をつくってその人が納得する理由だけ並べてでも本質的に俺らが目指したのはここだよねっていうのは別にチームで合意していくことをする、というのがやり方なのかなと。
3. アイデアを実現するための第一歩は?
質問:たくさんのアイデアが出てきたときに実現に向けて進むための第一歩は何に取り組めばいいですか。
Ryoz:「顧客に直接聞く」というのも一手だし、自分の周囲にいる人たちに尋ねてみても良いかなと思います。僕はよく友達とか知り合いに「こんなアイデアどう思う?」っていうのを聞くんですよ。理由は「それむずかしくない?」って言われたいから。実現が難しいことって言い換えるとみんながなかなか取り組まなそうなことなので、その実現方法を考えることで事業として前進することは結構あります。「それ良いね」って言うのはあんまり信用してないんです(笑)。
Pinky:Appleの「クレイジーと呼ばれる人が世界を変えた」みたいな話だと、常識にとらわれない、常識的に無理だって言われているところに対して、常識外から持ってきたアイデアで解決する方法があるっていうのは確かに一番いけてるアイデアだったりしますね。
4. 社会課題を起点にした新規事業の取り組み方
質問:社会課題を起点に新規事業に取り組む際のデザイン思考の進め方を教えて欲しい。
Pinky:マンハッタンの馬糞問題っていうのがわかりやすい例があります。1898年の第1回国際都市開発会議の議題が馬糞問題で、1800年後半から1900年まで街中に馬糞があふれていたことが社会課題だったのです。偉い学者の先生や政治家が集まって真剣に議論したんですけど、解決策は見つかりませんでした。それを解決したのはヘンリー・フォードでした。
フォードはエジソン発明会社にいたときに、発電機の技術を使って車を作りましたが、フォードは「おれは馬糞問題解決するぜ」といって車の開発に取り組んだわけではなく、人々の移動に対する課題を解決するために車を開発していたのです。安定的に走るとか、餌みたいに燃費が悪くなかったり、気分や体調が悪くて病気で走れなくなる、みたいな馬に対する課題を解決して安定化させる手段を提供した結果、馬糞問題を解決しました。
社会課題に直接アプローチするためのテクノロジーを生み出すことはあると思うんですけども、デザイン思考のプロセスで顧客とどう向き合うか考えたときに、社会課題を起点にするのは向いてないし難しいんじゃないかな、と僕は思っています。
Ryoz:良い質問でちょっと困っていますが、一例をあげるとしたら、日本の社会課題に農家の跡継ぎ問題がありますよね。何で農家の跡継ぎ問題が起こるのか、その理由は少子化とかもありますが、地方から人がいなくなってどんどん東京に出てきているとかあります。それで、どうしたら農家を増やすことができるのか?考えたときに最近思ったのは「かっこいい憧れの職業に昇華できないと駄目なのかな」と。最近の若者が将来なりたいのはYouTuberだったり、eスポーツゲーマーじゃないですか。
僕最近Netflixで『エミリーパリに行く』というドラマを見てたんですね。アメリカのPR代理店の女の子が、フランスのパリに出張に行かなきゃいけなくなってしばらくそこで生活をするお話しですが、カフェのシーンに南部鉄器が出ていたのです。これでピンッときたのが、南部鉄器を今からやりたいと思う人ってもしかしてそんなにないかもしれないですが、南部鉄器を日本から海外に向けて発信するのはかっこいい、というのはできるのかなと。
つまり、社会課題を解決する視点として「それをやっている自分」とか「世界に向けて提供している私たち」とか自分たちを他人にどう見せるか、といったスタンスの取り方も重要だなと考えたのです。
例えば僕が「お茶農家をやってる」を格好良く言うにはどうしようと思ったときに「良いお茶を作っているのだけど」だと弱い。このお茶をどうやって展開して、他人にどう見られたいのか、どう思われたいのかまで作り込めると良いかなと。それができると人が減っている一次産業を盛り上げることもできるのではないかと考えています。
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